[Vol.3] JASTJの未来を展望する|これからの科学ジャーナリズムとJASTJ 

日本科学技術ジャーナリスト会議(JASTJ)は、2024年7月に設立30周年を迎えました。これを機に始まった30周年記念誌プロジェクトの一環として、2025年5月14日、編集チームを中心に、会員有志がZoom座談会を開きました。JASTJの原点を振り返ったVol.1、インターネットによる情報空間の変化を考えたVol.2に引き続き、Vol.3ではAI時代におけるJASTJのこれからを展望します。

[Vol.1] JASTJの原点を振り返る

[Vol.2] 変わりゆく情報空間

[Vol.3] JASTJの未来を展望する(本ページ)

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Index

  1. AI「音声対話」の衝撃
  2. 「本筋外していない」大手メディア
  3. 関心ある人が広く集う場へ
  4. 大事な二つの使命
  5. 建設的な議論の場に

司会進行:佐藤年緒(30周年記念誌編集委員、JASTJ理事)
参加者 :井内千穂(同、同)
     井上能行(同、同)
     柏野裕美(JASTJ副会長)
     亀松太郎(30周年記念誌編集委員、JASTJ会員)
     杉村健 (JASTJ会員)
     高木靱生(30周年記念誌編集委員、JASTJ理事)
     高橋真理子(JASTJ副会長)
     武部俊一(30周年記念誌編集委員、JASTJ顧問)
     都丸亜希子(同、JASTJ理事)
     中川僚子(同、JASTJ会員)
     藤田貢崇(同、JASTJ理事)
     宮野きぬステファニー(同、同)
     室山哲也 (JASTJ会長)
     森時彦  (JASTJ理事)

50音順、役職は座談会開催の時点

AI「音声対話」の衝撃

佐藤 AIとどう付き合うかに関連してですが、ここでAIを使って作成した「音声対話」を紹介したいと思います。JASTJの10周年記念シンポジウムの記録を全部PDF化した上でAIに読み取らせて、それを男女二人が感想を語る5分程度の「音声対話」です。シンポジウム第2部の「科学ジャーナリストって何だ」という議論で20年前も同じようなことを話していたわけです。この音声対話を作成させた亀松さん、紹介ください。

亀松 この「ノートブックエルエム(NotebookLM)」は、いま一部で非常に話題になっているAIです。グーグル(Google)が開発しています。JASTJの10周年記念シンポジウムをまとめた記録をAIに与えて、「これをもとに議論してください」と依頼すると、男性と女性の二人の音声による対話という形で自動生成されました。現在のAIがここまで実現できてしまうということを象徴的に示すものです。冒頭部分を再生しますので、お聞きください。

AIの音声対話より
女:こんにちは。今回はですね、2004年に行われた日本科学技術ジャーナリスト会議JSTJの十周年記念シンポジウムの資料を一緒に見ていきたいと思います。
男:はい。
女:テーマは「科学技術の行方と社会~伝える、受け取る、語り合う~」ですね?
男:ええ、そうです。資料を見てると、特にデーニブ(第2部)の「科学ジャーナリズムって何だ」っていう議論が中心だったみたいですね。
女:なるほど。
男:ノーベル賞を取られた白川エイジュ(英樹=ヒデキ)さんとか、ノイ(野依=ノヨリ)良治さん、田中耕一さんも、あのー、一般参加されてたとか。
女:へーえ、それはすごいですね。
男:ええ。なので、科学と社会、それからま、それをどう伝えるか、ジャーナリズムの役割について、かなりこう突っ込んだ話が出たんじゃないかと。
女:研究者と社会、そしてメディアの関係性ですか。うーん、これは重要な論点がたくさんありそうですね。
男:そうですね。
女:では、早速その核心の部分を掘り下げてみましょうか。
男:はい。まずあの、注目したいのがノーベル賞受賞者自身の、こう問題意識なんですね。
女:問題意識ですか?
男:ええ。白川エイジュさんは、ご自身の研究が、まぁ言ってみれば100%税金で支えられてきたと。
女:あー、なるほど。
男:それを踏まえて、やはり社会に還元しなきゃいけないっていう思いが強くて、その媒介役としてジャーナリズムが重要だと感じて、それで科学ジャーナリスト塾に応募したって語ってるんですよ。
女:研究者の方が、みずからそこまで社会への説明責任というか、還元を意識してジャーナリズムに関心を。それは何か非常に示唆的ですね。
男:ええ、そうですね。一方で、同じくノーベル賞受賞者のノイ良治さんは、ちょっと違う視点からで。
女:はい。
男:20世紀の科学技術が、ま、軍事とか経済にちょっと偏りすぎた面があったんじゃないかと。
女:うんうん。
男:その反省から、21世紀は、持続可能性、サステナビリティですかね。それSTって呼んでますけど。それが重要になるだろうと
女:ST?「サステイナビリティ・テクノロジー」ですか?
男:そうです。そうです。なので、科学者と社会がもっとうまく連携していく必要性を訴えてるんですね。
女:なるほど。科学の役割自体も変わっていくべきだというような。
男:ええ。でも、じゃあ、その連携を担うはずの日本の科学ジャーナリズムの現状はどうかっていう話になると、結構厳しい自己評価も出てるんです。
女:あ、そうなんですか?
男:NHKの、えっと林勝彦さんという方が、日本の科学ジャーナリズムは、もしかして1.5流なんじゃないかと。
女:1.5流。
男:ええ、そういう問題を提起されて。それに対して、今度は朝日新聞の高橋真理子さんが、いやいや絶対1.5流じゃない。内向きにそう思っているだけだって強く反論して。
女:おー、なかなか白熱してますね。
男:そうなんです。さらに、文科省にいらっしゃったユリアモトタケオ(有本健男=アリモトタテオ)さんが、まあ1.2流ぐらいかな?みたいに応じたりとか?
女:(笑)1.2流(笑)評価がいろいろですね。
男:ええ、かなり率直な意見交換があったみたいですね。
女:でも、そのジャーナリズムの質に対する、こう内部からの問いかけっていうのは、うーん、考えさせられますね。
男:そうですね。

亀松 いかがでしたでしょうか。お気づきのように、人の名前の読み方には間違いが結構あります。例えば、白川英樹(ヒデキ)先生のことを「エイジュ」と言ったり、野依(ノヨリ)良治先生のことを「ノイ」と呼んだりします。漢字の読み方は正確ではありませんが、記録の内容自体はそれなりにうまく捉えて議論しているのではないかと思います。AIが自動的に生成したものです。かなり自然な声で、人間のようなユーモアも交えながらトークが展開されていますね。

佐藤 20年前に作って埋もれていた資料を、AIを活用した方法で蘇らせることができ、私はびっくりした次第です。この中で、名古屋大学の池内了先生は、「科学に対してジャーナリストは全てが正しいと思ってはいけない」とか「予防原則のことを考えないといけない」と言っています。すでに20年前に言われていたことを私たちができたのかと反省するうえで、一つの「鏡」にもなるものを、今回、亀松さんが生き返らせてくれた。それから、JASTJ10周年の際に出版した『科学ジャーナリストの世界』という本も、全体をPDF化してAIを使うと簡単に読めるようです。そういうAI技術の活用は、我々自身がより良く、深く理解して進んでいく一助になるのだと、実体験的に見せていただきました。

室山 面白いね。

高橋 私は衝撃を受けております。

佐藤 「高橋さんは『1.5流じゃない』と言った」というのはもう忘れてたでしょ。

高橋 もちろん忘れているし、「何言ったんだっけ?」っていう感じですけど。会話がとっても自然だったし、びっくりですよね、本当に。どうなっていくんですかね?ちょっと想像つかないですよね。

「本筋外していない」大手メディア

亀松 高橋さんに質問してもよろしいでしょうか。この10周年記念シンポジウムの中で、「科学ジャーナリズムのレベル」についての議論がありました。具体的には、立花隆さんが「日本の科学ジャーナリズムのレベルは低い」と辛辣な批判をしていて、それに対して高橋さんが「新聞は非常に発行部数が多いので、科学の難しい話は書けない。中学生でも分かるようにしか書けない」と弁明していました。これは、日本の科学ジャーナリズムが抱えてきた大きな課題なのではないかと思います。マスメディアとして伝播力が大きすぎるがゆえの悩みというか、一般大衆に向けて科学に関する情報を伝えていく難しさがあったのだろう、と考えます。

そこで、高橋さんにお聞きしたいのですが、シンポジウムから20年が経った今、日本の科学ジャーナリズムのレベルはどう評価できるでしょうか? インターネットの世界は脇に置いておいて、マスメディアの世界に限った場合、科学ジャーナリズムのレベルは上がったのか、下がったか。その点をうかがいたいなと思います。

高橋 コロナの時、大手メディアは基本的に変な情報は出さなかった。そういう意味では安心できるメディアを日本は持っていたんですよ。私は、3.11の時も大手メディアは本筋は外してないと思っています。あの時もメディア批判は盛んにされました。辛いことがあると誰かに不満をぶつけたい人の格好の対象になるのがメディアなんです。常に身近にあるメディアに文句をつけていければとりあえずスッとする人が大勢いるから、本当に「日本のメディアはダメだ」と思っている人は多い。でも、あの時、世界のメディアがどれほどいい加減な情報を流したか。日本が放射能まみれで、再起できないぐらいのトンデモ情報を、世界の多数のメディアが流していたわけです。そういう情報と比較すれば、もちろん自分の国のことだからということはありますが、日本のメディア、とくに大手メディアは、きちんとした情報を出していたと思います。だからあの程度の混乱で済んだんですよ。

メディアにいる人たちがそこをきちんとアピールしないのがダメなところと言うか、そんな自慢みたいなことは恥ずかしいという気持ちがある。自らにも批判的であるべきだという矜持みたいなものがあるから、「日本のメディアはちゃんとやりました」と言う人がいないんです。だから、私はああいう場で、みんなが「もう日本のメディアはダメだ」というところで、敢えて「そんなことないんですよ」ということを言ってきたわけ。いつもそれなりにきちんとした情報を出していたのが日本の大手メディアだというのが私の判断で、それは3.11の時もそうだったし、今回のコロナの時もそうだったということです。

佐藤 考え方は20年前と変わりないですね。こんな風に何事も検証をするときに、過去のデータを読まなければいけません。その資料を探すのも、読み取っていくのも大変ですが、検証は今後も我々に必要な作業かなと思います。組織的な意味でも、データの蓄積は必要で、どういう方法が一番、時系列的に検証できるのかという点において、AIなどのデジタル技術に頼ると役立つことを、今回いろいろやりながら感じた次第です。

関心ある人が広く集う場へ

佐藤 それでは、このような時代の変化の中で、JASTJという会がこれからどうあったらいいのか。まだ発言していない方、いかがでしょうか?

柏野 時代には流れがあり、その時代にあった伝え方、コミュニケーションがあると思います。今ではマスコミからSNSの影響力の高まりが顕著です。
JASTJも設立当初はサイエンスジャーナリストが中心だったけれども、今は、広報やサイエンスコミュニケーターなど様々なバックグラウンドの人で構成されています。SNSもTikTokなどメジャーなプレイヤーが目立ちますが、SNSサービスは数多くあり、新しいメディアも生まれています。コミュニケーションの媒体がどう変わっても、それらを活用して発信する多様な人たちが参加できるJASTJであることが大事だと思います。

仕事での情報収集を振り返ると、これまでSNSを活用することが多かったように思います。しかし最近では、生成AIを使って、例えば「日経新聞はこのテーマについてこれまでどのように報道してきましたか?」というプロンプトを入れて、メディア各社がどう報じているかを見比べたり、メディアの名前を入れずに調べてみたりと、情報収集の仕方が変わりました。選択肢が増える中で情報の受け手は何を選ぶのか、という時代だと思います。情報へのタッチポイントも多様化していますし、情報収集のスタイルも変化していると思います。

佐藤 中川さんは科学コミュニケーションに関心を持っておられますが、JASTJのこれからについて、どういうことを望んでいますか。

中川 私は科学コミュニケーションから入った者で、JASTJにはJ塾がきっかけで入会しました。私のように専業主婦歴が長い熟年層にも門戸を広げてくださったことにとても感謝しています。JASTJでは、コミュニケーションをとるだけでなく、議論するところが非常に刺激的です。人生、大学を卒業してからの方がずっと長いという思いが私の中では大きくて、自分の時間ができた時に再び学ぶ機会や、社会について考えたり誰かと議論をしたりする場には、とても意義があると思います。

今後もジャーナリズムや社会、科学技術に関心がある人を広く受け入れていただきたいです。あるテーマでメンバーが集まって、それについて深く掘り下げるような活動があってもいいと思います。そうしたことがあれば、少しずつ参加させていただきたいと思っています。

大事な二つの使命

佐藤 やはり、一つのテーマで皆が勉強し合うことができる。それがJASTJの魅力の一つなのかなと思います。科学コミュニケーションの歴史にもいろいろありますが、「科学ジャーナリストの精神」という言葉も出ていました。この点ではどういうことを大事にしていかなければいけないのか、ここでまとめができたらいいなと思います。いかがでしょうか。

武部 私は、科学ジャーナリストが敏感にならなければならない事柄は二つあると思います。

第一の大事な使命は、社会の番犬みたいな役割ですよね。これはおかしいぞ、危ないぞということを見つけてそれを知らせるということ。必ずしも自分自身が番犬になる必要はなくて、優秀な番犬を発掘するということですよね。社会の脅威となりそうな情報を正確に伝えるリスク報道です。どんなことでも前兆を捉えている人がどこかにいるかもしれない。それを発掘して伝える。例えばあの福島原発事故でも、産業技術総合研究所の研究がありましたね。9世紀に起こった貞観地震で、あの辺が大津波にやられていたという研究が進んでいて、間もなく問題にしようとしていたけれども、どこの役所もあまり耳を貸さなかったらしい。そういうことがちゃんと報道されず、事故が起きてしまってから明るみに出た。

JASTJとしては、このようなリスクウォッチみたいなことに活動の幅を広げたいですね。ジャーナリストの分際で、これはどうあるべきだということを決めたり、教示したりする必要はなくて、それを考える材料、特に潜在的な材料を把握して、警鐘を鳴らすということが重要なのではないでしょうか。

もう一つは、同じ「キョウイ」でも自然の驚異ですよね。いわば「センス・オブ・ワンダー」の心情。世界にはこんな不思議なことがある、こんな面白い研究があるということを、発掘して、知らせる。それで読者や視聴者の心の世界を広げて、人生を豊かにする報道も重要です。ジャーナリズムというのは面白くなきゃいけないんですよね。やっぱり大衆的な文化ですから、文化をみんなが楽しめるように、あるいはそれがもたらす脅威から逃れられるように、賢く、楽しく生きるような情報を提供する使命があると思います。

建設的な議論の場に

武部 JASTJの活動として、もう一つ付け加えるとすれば、論争の場ですよね。これまで例会が150回くらい開かれているけど、二人の講師を呼んで論争した経験というのは2回しかない。1回は核融合の開発のあり方で、推進者の森茂さんと、異論のある東工大の先生を呼んで討論した。あとは放射性廃棄物の被ばく問題で対論したくらい。討論者の選定や討議の運営に難しい面があるでしょうが、ジャーナリズムの中でも二つに分かれている問題、例えば原子力依存や子宮頸がんワクチンなども避けずに議論を戦わせたい。

佐藤 JASTJが避けて通れない課題はいくつもあります。設立時の役割の一つであった世界の人たちとの交流ですね。それから核廃棄物処分の問題など世代を超えるほど解決に長期的時間を要する課題に我々がどう取り組むか。また、若手人材の参加とそのパワーの生かし方。それに引き続き所属組織を超えた会員の交流と研鑽です。あと資金確保。記録の保存や社会貢献など、本当に挙げればたくさんあります。今後のJASTJは、どういう方向で歩み続けたらいいのか。今日の議論を踏まえて、室山会長、最後にひとことお願いします。

室山 明後日、WEB井戸端会議で学術会議法案についての勉強会をします。瀧澤美奈子さんと小林傳司先生という立場が違う二人が意見をぶつけ合います。でも、考えてみれば、忌憚ない意見のぶつけ合いや論争は、JASTJじゃないとできないなと思うんです。僕の記憶が正しければ、トインビーという人が「新しい文明は異質な文明が交差するところに生まれる」と言ったように思います。今の時代、こんなに情報が溢れているのに、みんな自分の好きな情報だけ見たり聞いたりしている状況があります。化学反応を起こすような議論がしにくい時代になっているのです。原発なんかも、JASTJで何回もやりましたけども、最後に「アホだ」「バカだ」って罵り合いながら終わる場合があって、僕は「アホバカ論争」と名付けているのですが、それは良くない。価値観の違いを乗り越えて、化学反応が起きていくような議論の場が必要だと思います。明後日の議論は、そういうものを目指したいですね。

佐藤 JASTJならではの良い議論になることを期待します。そして次の30年に向けて、今日の座談会から何かをつかんでいただけますように願って、座談会を終えます。ありがとうございました。(終わり)

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