科学ジャーナリスト賞2015

【科学ジャーナリスト大賞】1件 
・毎日新聞科学環境部記者 須田桃子(すだ ももこ)殿
「捏造の科学者 STAP細胞事件」(文藝春秋)の著作に対して
[贈呈理由] 
 STAP細胞事件は、2014年の最大の科学事件だった。もちろん事件を起こしたのは科学者であり、それを増幅させたのは研究機関だったが、メディアもまったく無関係とは言えない事件である。本来なら新聞部門で応募してもらってもいいケースだが、事件が一段落したところで、新聞記者がもう一度、最初から調べなおして書物にまとめるという作業も大事なジャーナリズム活動だ。須田記者の事件への肉薄ぶりと分かりやすく再構成しなおした筆力は、見事というほかない。

【科学ジャーナリスト賞】4件・順不同 
・中国新聞社編集局経済部記者 山本洋子 (やまもと ようこ)殿
連載記事「廃炉の世紀」(2014/10/28~2015/2/17)」に対して
[贈呈理由]
 原発にはいかに問題が多いか、廃炉や廃棄物処理の難しさを丹念に追った中身の濃い内容で、とくに国際的な取材にも力を入れ、海外の事情もよく分かる。廃炉にかかる膨大な時間とカネ、除染と言っても移染にすぎない放射性物質の厄介さがひしひしと伝わってくる地方紙としては出色の報道記事である。

・神戸新聞東京支社編集部長兼論説委員 加藤正文(かとう まさふみ) 殿
「死の棘・アスベスト 作家はなぜ死んだのか」(中央公論新社)の著作に対して
[贈呈理由]
 アスベストの怖さを実によく調べており、ここまで放置してきた日本の対策の失敗を浮き彫りにしている。とくに、十数年から50年以上たって発症することは、これからも被害が出てくることを示しており、現在だけでなく「未来の課題だ」という指摘は実に重い。

・科学ジャーナリスト 添田孝史(そえだ たかし)殿
「原発と大津波 警告を葬った人々」(岩波書店)の著作に対して
[贈呈理由]
 工場で小さな火事があっても刑事責任が問われるのに、あれほどの被害を出した原発事故は誰一人責任を問われていない。その理由は「大津波が想定外だったから」ということになっているが、実は、想定外どころか、さまざまな想定があり警告が出されていたことを明らかにしたのが本書である。想定や警告を無視したのは、政府や電力会社だが、同時にメディアの責任も極めて大きいことを示している。

・NHKスペシャル「腸内フローラ」取材班 代表 NHK制作局科学環境番組部 チーフ・プロデューサー 浅井健博 (あさい たけひろ)殿
NHKスペシャル「腸内フローラ~解明! 驚異の細菌パワー~」(2015/2/22)の番組に対して
[贈呈理由]
 腸内細菌の働きを、コンピューター・グラフィックを駆使して迫力ある映像として見せた。医療革命の一断面をうまく切り取った優れた科学番組である。コンピューター・グラフィックが多すぎるきらいはあるが、目に見えないものを見えるようにするにはやむを得ないところもあり、今後の発展への貴重なステップとはなろう。

【特別賞】(1件)
・東京理科大学近代科学資料館 代表 科学コミュニケーター 大石和江(おおいし かずえ)殿
企画展示「科学雑誌-科学を伝えるとりくみ-」(2014/10/17~11/29)に対して
[贈呈理由]
 科学ジャーナリスト賞の対象として、以前から博物館や科学館の展示も加えると公表してきたが、展示はその期間が過ぎると見られなくなってしまうため、これまで授賞はなかった。そこで今回は、受賞しそうな展示をピックアップして、期間中に選考委員に見てもらうという方式をとり、比較的評価の高かった理科大の科学雑誌展に特別賞を贈ることにした。今後さらなる応募を期待したい。

 一次選考を通過した作品は、以下のとおりです。

作品名代表者名出版社など種別
連載記事「廃炉の世紀」(2014/10/28~2015/2/17)山本洋子中国新聞新聞
基準値のからくり村上道夫、永井孝志、小野恭子、岸本充生講談社書籍
死の棘・アスベスト 作家はなぜ死んだのか加藤正文中央公論新社書籍
「放射能汚染地図」の今木村真三講談社書籍
偽りの薬〜バルサルタン臨床試験疑惑を追う河内敏康、八田浩輔毎日新聞社書籍
原発と大津波 警告を葬った人々添田孝史岩波書店書籍
捏造の科学者 STAP細胞事件須田桃子文藝春秋書籍
日経サイエンス誌2015年3月号「STAP細胞の全貌」など一連の記事古田彩、詫摩雅子日経サイエンス雑誌
NHKスペシャル「メルトダウン FILE. 5 知られざる大量放出」(2014/12/21)鈴木章雄、藤川雅弘、中村直文、浅井建博NHK映像
NHKスペシャル「腸内フローラ~解明! 驚異の細菌パワー~」(2015/2/22)浅井健博NHK映像
ドキュメンタリー映画「福島 生きものの記録 シリーズ2015異変」(2014/6/20)岩崎雅典群像舎映像
科學雑誌―科学を伝えるとりくみ―(2014/10/17~11/29)大石和江東京理科大学近代科学資料館展示

〔外部委員〕 相澤益男(国立研究開発法人科学技術振興機構顧問)、浅島誠(東大名誉教授、独立行政法人日本学術振興会理事)、白川英樹(筑波大学名誉教授、ノーベル化学賞受賞者)、村上陽一郎(東京大学名誉教授、国際基督教大学名誉教授)、米沢富美子(慶應義塾大学名誉教授)
〔JASTJ内部委員〕 小出重幸、柴田鉄治、滝順一、室山哲也、横山裕道