科学ジャーナリスト賞2016

【科学ジャーナリスト大賞】1件
・東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 准教授 阿部豊(あべゆたか)殿
「生命の星の条件を探る」(文藝春秋)の著作に対して
[贈呈理由]
「科学者の書いた優れた啓蒙書にも」というのは、科学ジャーナリスト賞創設のときからのコンセプトだが、その典型ともいうべき優れた作品だ。自らの研究テーマを一般市民にも理解してもらおうと、不自由な身体をおして、渾身の力を込めて書き下ろした力作である。「研究対象に対する限りない愛情が感じられる書だ」と選考委員会でも高く評価された。

【科学ジャーナリスト賞】4件・順不同
・毎日新聞社北米総局長 会川晴之(あいかわはるゆき)殿
連載「核回廊を歩く〜日本編」及び記事「日本の核技術流出、初確認」(2015/9/15〜12/11)に対して
[贈呈理由]
 丹念な取材に基づく連載で、日本における核技術開発の流れを分かりやすく追っている。日本が「平和利用」と実際の「政治」の間で揺れ動いてきたのがよく分かる。とくに核不拡散政策の視点から原子力史を概観した点がユニークだ。

・出産ジャーナリスト 河合蘭(かわいらん) 殿
「出生前診断 出産ジャーナリストが見つめた現状と未来」(朝日新聞出版)の著作に対して
[贈呈理由]
 出生前診断の歴史と現状を理解するのに役立つ大変な力作だ。妊娠中、あるいは、これから妊娠を望む夫婦にとって、よい指針となる作品だろう。出生前診断が命の選別につながるとの日本特有の社会状況に肉薄しているところも出色といえよう。

・株式会社社会技術システム安全研究所 所長 田辺文也(たなべふみや)殿
雑誌「世界」(岩波書店)2015年10月、12月、2016年2月、3月号の『解題「吉田調書」ないがしろにされた手順書1~4』の記事に対して
[贈呈理由]
 文章が硬く、分かりやすいとは言えないが、内容は重大かつ深刻な問題だ。政府事故調の報告書を読み解いて、福島事故の2号機、3号機へのメルトダウンの拡大は、明らかに人為ミスであり、東電の最大の失敗であったと断じている。検察庁が「想定外の天災による」と、誰ひとり刑事責任を問わなかったことへの痛烈な反論にもなっている。

・NHK報道局ネット報道部長(当時 科学文化部専任部長) 近堂靖洋(こんどうやすひろ)殿 NHKスペシャル「廃炉への道 “核燃料デブリ” 未知なる闘い」(2015/5/17)の番組に対して
[贈呈理由]
 映像部門の4本は、どれも力作で選考が難しかったが、熟慮の末、NHKスペシャル「廃炉への道 “核燃料デブリ” 未知なる闘い」が選ばれた。廃炉への最大の課題、核燃料デブリは、どこにどんな形で存在するのか、それさえはっきりしない難物だが、宇宙線を使ったりロボットを使ったり、何とか映像化しようという努力が実った労作で、映像ならではの迫力がある。やっと未知なる闘いの入り口に立ったというべきで、その努力を継続してもらいたい。

 一次選考を通過した作品は、以下のとおりです。

作品名代表者名出版社名など種類
「もんじゅ運営 剥奪検討」(2015/11/1)天野健作産経新聞新聞
連載「核回廊を歩く〜日本編」及び記事「日本の核技術流出、初確認」(2015/9/15〜12/11)会川晴之毎日新聞新聞
科学者は戦争で何をしたか益川敏英集英社書籍
生命の星の条件を探る阿部豊文芸春秋書籍
海洋大異変―日本の魚食文化に迫る危機山本智之朝日新聞出版書籍
出生前診断〜出産ジャーナリストが見つめた現状と未来河合蘭朝日新聞出版書籍
解題「吉田調書」ないがしろにされた手順書1〜4
(世界2015年10月、12月、2016年2月、3月号)
田辺文也岩波書店雑誌
NNNドキュメント「2つのマル秘と再稼働〜国はなぜ原発事故試算を隠したか?」(2015/8/24)原井聡明日本テレビ映像
シリーズ医療革命「新アレルギー治療〜カギを握る免疫細胞」(2015/5/3)浅井健博NHK映像
NHKスペシャル「廃炉への道 “核燃料デブリ”未知なる闘い」(2015/5/17)近堂靖洋NHK映像
NHKスペシャル「シリーズ東日本大震災 追跡原発事故のゴミ」(2015/11/21)相沢孝義、横山友彦NHK映像

<科学ジャーナリスト賞選考委員(50音順、敬称略)> 
〔外部委員〕相澤益男(国立研究開発法人科学技術振興機構顧問)、浅島誠(東大名誉教授、独立行政法人日本学術振興会理事)、白川英樹(筑波大学名誉教授、ノーベル化学賞受賞者)、村上陽一郎(東京大学名誉教授、国際基督教大学名誉教授)、米沢富美子(慶應大学名誉教授)
〔JASTJ内部委員〕小出重幸、柴田鉄治、滝順一、室山哲也、横山裕道