現場取材1 10月8日(土) 「国立研究開発法人医薬基盤研究所(大阪府茨木市)」

 コロナ禍のために延期となっていた取材研修会が2年越しで実現しました。前日は88年ぶりの寒さと雨でしたが、当日はお天気にも恵まれ、高台にある敷地内を移動する研究室見学にはうってつけの日となりました。オンライン参加を含めると35人、現地参加16人のうち6人が塾生でした。

 医薬基盤・健康・栄養研究所は、医薬基盤研究所と国立健康・栄養研究所が2015年に統合して生まれた、「誰一人取り残さない」健康・栄養政策のための研究を展開する研究所です。まず、理事長の中村祐輔さん(写真左)、次に、この研修会を計画したJASTJ副会長の瀧澤美奈子さん(写真右)があいさつをしました。

 続いて5人の研究者の講演です。

 ワクチン・アジュバンド研究センター長の國澤純さんの「ウィズコロナ時代における腸内環境の重要性と新しい健康科学への挑戦」は、腸内細菌研究の最新成果と、健康科学やヘルスケア産業への展開について話しました。

 つくば市にある薬用植物資源研究センター長の吉松嘉代さんは「薬用植物の可能性を広げるために~創薬候補となる薬用植物の探索支援と産地の育成~」で、「薬用植物」、「生薬」、「漢方薬」という三つの言葉の説明から入り、日本はこれらの原料のほとんどを輸入に頼っている危機的状況にあることを説明、薬用植物栽培の支援やエキスライブラリーの構築とその利用例を紹介しました。

 AI健康・医薬研究センターAI栄養プロジェクトリーダーの荒木通啓さんは「『個別最適化』された栄養・健康指導に向けて~健康・栄養ビッグデータとAIがコラボ~」で、近年急速に開発が進んでいる機械学習や深層学習の研究利用の可能性に関して話すとともに、産学官連携の取り組み例を紹介しました。

 AI健康・医薬研究センター・バイオインフォマティクスプロジェクトリーダーの夏目やよいさんは「医薬品開発におけるAI活用の魅力~これからの創薬のあり方について語ろう~」で、新薬開発に多大の時間と費用がかかる現状を説明し、AIを用いることにより効率化した例を紹介しました。また、これまでの発想を転換したヒト情報から創薬の標的を定める試みについての紹介もしました。

 つくば市にある霊長類医科学研究センター長の保富康宏さんは「エイズウイルスの完全排除に繋がる免疫応答の誘導~エイズ根治を導くワクチン療法の開発~」で、遺伝子を欠損させて弱毒化したエイズウイルスに、ある遺伝子をアジュバント(効果を高めたり、補助するもの)として導入することにより、ウイルスを完全に排除できる可能性が見えてきていると話しました。

 質疑応答では、塾生からの質問も飛び交い、講演内容をより深く理解する手がかりをえました。

 

 研究室見学は、2グループに分かれ、ワクチン・アジュバンド研究センターとAI健康・医薬研究センター・バイオインフォマティクス研究室に行きました。
 バイオインフォマティクスの研究室は、なんと「ごく普通」のPCが並んでいるだけです。サーバーは外部にあり、個人情報の部屋の見学はできません。見た目はただのPCですが、ここから新たな薬の素ができるのかと想像すると、普通のPCもキラキラして見えました。

 ワクチン・アジュバンド研究センターは、バイオハザードマークのあるP2(遺伝子組み換えが可能な物理的封じ込めのレベル)表示のある研究室の見学です。スリッパに履き替え、ちょっと緊張気味で入室しました。遺伝子解析のための機器や細菌の代謝物を解析するための機器などのほとんどが企業と開発した「第一号機」と聞いて驚きました。

写真・⽂ スタッフ 都丸亜希⼦