第22期科学ジャーナリスト塾の取材実習が10月19日、東京都立川市にある国立極地研究所(以下、極地研)で行われた。全塾生21名のうち18名、塾関係者6名を合わせて24名が参加し、研究現場の一端を垣間見ながら専門家の話を聞くという取材を体験した。
コロナ禍を経てオンライン講義中心となった塾で、取材実習はリアルに顔を合わせる貴重な機会でもある。名古屋、岐阜在住の塾生も参加し、一同和やかに言葉を交わした。なお、ノーベル化学賞受賞者の白川英樹先生が「元塾生」という立場で、ご夫婦で特別参加された。
1956年に国の事業として南極観測隊の派遣が始まり、極地研は1973年に創設された。所長の野木義史さんは、「極地研究の意義と成果」と題した講演で、「気候変動の影響は極域で顕著」であること、そして「北極と南極の環境激変が地球環境を左右」することを強調した。10月半ば過ぎにもかかわらず東京の最高気温が30度だったこの日、極地研究の意義が、実感を伴って伝わってくる。
質疑応答には時間が足りないほどの挙手があり、多彩な社会人経験を持つ塾生たちが各々の視点から質問した。
「氷床と海氷はどう違うのか?」という定義の確認から、極地研究と気候変動の関係の深掘り、南極の平和利用と国際協力、日本の技術的優位性、次世代育成、学際的研究の取りまとめまで、野木さんは一つ一つの質問に丁寧に答えた。
講演後、2班に分かれてラボと倉庫を交代で見学した。ラボでは、極地研が誇る最先端技術の一つ、二次イオン質量分析計(Sensitive High-ResolutionIon Micro Probe)について担当助教の堀江憲路さんが解説した。
頭文字をとった「SHRIMP」という名称には、エビ(英語でshrimp)のような形という意味も込められている。世界に19台、日本国内には4台しかなく、うち2台がここ極地研にある。試料にイオンビームを照射して、微小領域の質量を分析し、その領域の年代測定を行う装置だ。感度は「宇宙から日本列島を見て局地的に東京都の人口約1300万の中から13人を見つけられるほど」だという。
南極の昭和基地周辺は、かつてゴンドワナ大陸が離合集散した境界にあたるという。5億年前の岩石から成るとされていたが、採取した岩石試料をSHRIMPで分析した結果、9億年前の岩石もあることが新たにわかってきた。微小試料の中心部と周縁部で年代が違う例も見つかり、大陸同士の分裂や衝突の複雑な変動履歴を解明する地質学的な手がかりになりそうだ。
倉庫では、南極観測隊に3回参加した広報室長の熊谷宏靖さんが、南極観測事業を概説した。
次期南極観測隊の準備が進む倉庫には、観測機器や基地建築資材、ヘリコプターで運べるサイズのコンテナ、隊員の生活に必要な冷蔵庫などが整然と並ぶ。
実物に目を見張りながら、塾生たちは熊谷さんに熱心に質問し、昭和基地でのリアルな生活に思いを馳せた。
取材実習終了後、一般公開されている南極・北極科学館に案内してもらった。塾生たちは、時間が許す限り、野木さん、熊谷さんと展示を見ながら質問を続け、17時の閉館まで話が尽きなかった。
文:井内千穂
写真:都丸亜希子、高橋真理子、井内千穂