第22期科学ジャーナリスト塾の修了式を迎えて

 半年間の科学ジャーナリスト塾が終わり、226日に日比谷図書文化館4階で修了式が行われました。塾生14人、講師陣や関係者23人が会場に集い、塾生1人と講師1人はオンラインで参加しました。開会前の会場では塾生たちの動画作品が上映され、塾生のみなさんも映像の講義をなつかしく思い出したことでしょう。かつて塾生だった私にとっては初めて塾のスタッフを務めた半年間であり、改めて塾の意義をかみしめる修了式となりました。

 修了式で、室山哲也会長は塾生たちをねぎらい、塾を通じて自分がどう変わったか考えてみてほしいと呼びかけました。また、開講式で投げかけた「AIと人間で文章の修正を比較したらどう違うのか」という問いを振り返り、「AIに聞いて文章が良くなるのなら塾に来る必要はないが、人間が集まってやっているのはなぜか。その辺にこの塾の本質がある」と語りました。

 次に講師陣を代表して、映像の講義を担当したBSフジ「ガリレオX」ディレクターの泉大知さんが挨拶。泉さんは自作のフェイク動画を見せながら、先入観バイアスの強さが故に塾生は誰一人疑わなかったという講義でのエピソードを伝え、生成AIの進化でますます巧妙になるフェイクへの懸念を示しました。そして、映像制作現場での自身の葛藤も吐露しつつ、最近感銘を受けた映像を紹介しました。沖縄・久高島で1978年を最後に途絶えた祭礼「イザイホー」の記録映画です。「文字による記録も大切だが、映像にしかできない記録メディアのあり方を考えさせられた」と語った泉さんが、やおら後ろを向くと、なんとシッポが生えています! 「果たして私はヒトなのか。これもフェイク」という軽妙なオチに会場は引き込まれました。

続いて、高橋真理子塾長が塾生一人ひとりに修了証書を手渡しました。「多様な宿題に取り組み、最後にみずからの作品を仕上げたのはあっぱれでした」と読み上げる声が会場に響きます。

 塾生たちはひと言ずつ挨拶。塾を通じて「ニュースや映像を見る着眼点が変わった」「南極観測船での取材実習が楽しかった」「取材して文章を書くのは初めてだった」「正確性と読みやすさを兼ね備えた文章を書くことを学んだ」「JASTJの会報記事を書く機会があり良い経験になった」「文章を書くことが好きになった」といった新鮮な感想が続きました。

 社会人が多かったのが今期の塾の特徴です。「宿題をほとんど出せなくて、あまり良い塾生ではなかった」という声から業務多忙がしのばれる一方、「次の仕事につなげていきたい」という声も多々。「日頃は社内で編集する立場だが、いざ自分で書いてみて、これまでの自分を反省した」「ジャーナリストと研究者の考え方の違いを再認識できた」「文系の教員だが、塾で学んだことを理系の生徒たちにも伝えていきたい」など、様々な職場を反映した挨拶が印象的でした。

 入塾21人のうち16人が最終作品の提出に至りました。これは例年以上に多く、高橋塾長は、最終発表会でのフィードバックを踏まえて、より良い完成作品を提出した塾生たちの努力をたたえました。そこでの「伸びしろ」の大きさに触れて、高橋塾長は、講師陣の指導だけでなく塾生同士でもコメントし合うことの意義を強調し、「それは室山会長が問いかけた『AIからは得られない何か』に当たるのではないか」としめくくりました。

 私が塾生だった頃との大きな違いは、コロナ禍以降、塾の授業がオンライン中心になったことです。この方式は在宅でも参加しやすく、講師陣の経験知が詰まったオンデマンド講義を繰り返し視聴できるのもメリットです。ライブZOOM講義では、多彩な塾生から自分では思いつかないような質問が飛び出し、決してパターン認識ではない人間味あふれる答えが返って来る質疑応答に毎回感銘を受けました。一方で、画面上でしか会えない寂しさもあります。修了式は取材実習以来の再会の場となり、人が集まってリアルで交流する楽しさを実感しました。

文:井内千穂
写真:滝順一、瀧澤美奈子