
第23期科学ジャーナリスト塾の取材実習が10月18日(土)、茨城県つくば市の国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)で行われた。今期の塾生から15人が参加。塾スタッフら8人も加わり、農業をめぐる様々な課題に挑む研究現場の最前線を体験し、取材した。
スマート農業の実情を取材
今年はコメ価格の急騰が社会問題になったが、農業現場では担い手不足や高齢化、地球温暖化・気候変動への対応など課題が山積している。農研機構では、ロボット技術、AIなどの最先端技術を活用したスマート農業を目指しており、各分野の研究者の説明に、普段は農業に特段の興味がなかった塾生からも熱心な質問が相次いだ。

農研機構 農業機械研究部門(農機研)長﨑裕司所長の説明を聞く塾生ら
過去・未来の栽培環境を再現
気候変動は多くの農産物の品質や収量に大きな影響を与えるが、農業情報研究センター(農情研)の「ロボティクス人工気象室」は、気温、湿度、日射などの条件を自在に変えて栽培実験が行える施設。その応用例として、クリスマスシーズンに需要が集中するイチゴを、時期を外さずにぴたりと生産する管理手法などが紹介され、参加者の興味を引いていた。


米丸淳一副センター長の説明を聞く塾生ら
また、農情研では稲作に大きな被害を及ぼすイネウンカの発生を把握するために、AIを使った自動カウントシステムを開発している。従来、熟練者の目視では調査板1枚に付着した虫を数えるのに1時間以上かかることもあったが、画像化してAIに自動認識させると5分で処理が終了するという。

将来に備え28万点の遺伝資源を保管
農研機構の重要な役割のひとつが、失ってしまえば二度と入手できない農業・食品分野の貴重な遺伝資源を収集、保存、配布する事業だ。その対象は、稲、野菜などの植物約24万点のほか、微生物(約3万8千点)、動物(約2千点)など多岐にわたる。つくば市の種子保管施設だけでも16万点の植物遺伝資源が種子として保管されているという。


果樹の品種改良でも成果
農研機構傘下の果樹茶業研究部門では、栽培適地に配置された研究拠点で様々な果樹の新品種を生み出してきた。有名なのがブドウの「シャインマスカット」(2004年開発)で、栽培面積のシェアがついに国内1位になった。リンゴの「ふじ」(生産量世界1位)、ナシの「幸水」「豊水」なども広く親しまれている。
取材実習では、つくば市内の果樹研究施設も訪れ、果樹農家の摘果作業を大幅に省力化するための樹形の開発研究などの成果を聞いた。

高齢者の摘果・運搬作業を強力にサポートする追従ロボット「メカロン」の実演も取材。AIを搭載したこのロボット運搬車は、覚えさせたルートを繰り返し走行もできる。
果樹農家役の農研機構 農機研 長崎裕司所長がメカロンの前に立ってスタートボタンを押すだけで、「あなたについて行きます」と発声して忠実に長崎さんの後を追い、離れすぎると「スティックで操作してください」と助けを求める姿に、参加者からは「かわいい」といった感嘆の声も。

農業全般をカバーする農研機構だけに取材対象を厳選していただいたが、それでもAI・スパコン利用から機械設計・開発、環境制御、果樹園・・・と、盛りだくさんな取材となった。広大な敷地内や分散農場への移動、つくば駅との往復などにバスを用意していただくなど、農研機構の鈴木孝子理事、吉
岡都広報部長ら広報部の皆さんには大変お世話になった。

文:北村行孝、井内千穂
写真:北村行孝、高橋真理子、都丸亜希子