JASTJ・福島原発事故再検証委員会を代表して
林勝彦
21世紀の歴史に残る深刻な科学事故が2011年3月に、福島第一原子力発電所で起きた。メルトダウン(炉心溶融)、原発3基の水素爆発、さらに高濃度汚染水問題を含む放射能惨事であった。その後、政府、国会、民間、東電の事故調査委員会が立ち上がり、4つの事故報告書が発表された。私たちは、柴田鉄治委員長のもと編集委員会を作り、JASTJ会員有志9人で4事故調の報告書を比較検証し、2冊の本を出版した。それから7年、国会で十分な議論もなく事故調の提言と課題の大部分は放置されたまま、いまだに、誰一人として事故責任を負うことなく、反省と総括なきまま風化と再稼働が進んでいる。
現在、汚染が高い被曝地では、20mSv/年以下で避難解除が進むが、まだ 7つの市町村に取り残された区域がある。避難解除された地域の帰還率は平均15%と極めて低く、約5万人が故郷に戻っていない。最大の理由は、放射線の人体影響への不安にある。日本国は、人体への線量限度として、ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告を採用している。平時の場合、一般人は、「1mSv/年」と法令で決めた。しかし、ICRPは、原発爆発等による大量放射能放出時は特例として100〜20mSv/年を勧告、緊急時を脱し平時への移行期には、20〜1msv/年と、2007年に勧告している。期間の規定は無い。チェルノブイリでは、5年経過後、線量基準を下げ、法律で5mSv/年以上は、強制移住とした。7年経過した日本は、20mSv/年のまま据え置かれている。この基準は、レントゲン技師など、放射線業務従事者の平均年間限度の線量に相当する。BElR-Ⅶ報告書(米国科学アカデミーの電離放射線の生物学的影響に関する第7報告)は、胎児など子供への影響は大人の3〜7倍と記述している。また、福島県では、津波によって直接亡くなった人より、避難時に亡くなった病人や弱者、将来を悲観し自殺した人など原発震災の関連死とされる人の数が上回り、心の病いも増えている。
これでよいのだろうか? もし、再び 重大原発事故を起こしたら、私たち科学ジャーナリストは2度過ちを犯すことになる。その危機感から有志を募って「福島原発事故再検証委員会」を立ち上げた。
賛同者は多く、日本記者クラブで毎月開く会合には常時9人が参加し、どのように取り組むべきか議論を重ねた。その結果、まず4事故調の責任者にインタビューし、それぞれの事故報告書の提言がどこまで生かされたのか。地震・火山大国で着々と進められる原発再稼働をどう見るか。また、世界の動向から大きく立ち遅れている再生可能エネルギーへの見解などを聞き、活字と映像でJASTJのホームページに公開することにした。