南アフリカで「人類のゆりかご」を訪ねて

 

理事 井内千穂

12月1日、世界遺産である南アフリカ人類化石遺跡群を訪ねるフィールドトリップに参加し、人類の進化の道筋を書き換えるかもしれない現場を垣間見た。

プレトリアの国際会議場から西へ、マイクロバスで小1時間ほどのマラパで博物館を見学。木立にふとキリンが見え、草原の彼方にインパラが走る野生動物の保護区内だ。付近の石灰石採掘場跡で2008年、古人類学者リー・バーガー博士と9歳の息子が猿人の化石を発見した。200万年前のものと推定され、バーガー博士はアウストラロピテクス・セディバ(セディバ猿人)と名付けた。

さらにバスで30分ほど南西にあるライジングスター洞窟群では、2013年以来、2000個に上る骨や歯が採集され、バーガー博士らのチームは、「ホモ・ナレディ」と名付けた。約20万年~30万年前のものという推定結果もあり、ホモ・ナレディが現生人類と共存していた新たなヒトであるのか、論争が続いている。

現地で一行を迎えたバーガー博士は、「この遺跡にはホモ・ナレディの出生直前から高齢に至るまでの化石人骨があり、しかも複数の個体の骨格を比較して成長に伴う違いを見ることもできる」と自信を見せた。

ライジングスター洞窟群のサイトで一行の質問に答えて
化石に関する最近の知見を語るバーガー博士

洞窟での発掘作業を担い、「地下の宇宙飛行士」と呼ばれた女性たちの中で、初めて地元から採用されたケネイロエ・モロピアニ博士の案内で洞窟の一つに入った。暗がりの奥に狭い地下トンネルの入口が見える。ホモ・ナレディは洞窟に死者を埋葬したのではないか。暗闇を照らす火を使ったのでは? そんな仮説を提示する論文も発表されているが、まだ研究途上だ。「最近は地元で古人類学を専攻する学生が増えている」と博士は朗らかに言った。

12月1日、モロピアニ博士(2列目右端)の案内で、ライジングスター洞窟群の洞窟の中に入った一行(写真提供:Eduardo Quintana)

国際会議場でのプログラムの中に、12月4日、「なぜ過去についてリポートするのか?現在に注目すべきことが山ほどあるのに(Why report on the past if there’s so much to focus on in the present?)」と題したセッションがあった。地元アフリカの研究者を中心に古人類学者、地質学者、植物考古学者らが集まり、各専門分野から過去へのアプローチは、単なる学術的好奇心ではなく、気候変動など現在直面する課題を解釈し、過去の人類の対応を未来に生かせる、という興味深い議論が繰り広げられた。

そして、会議最終日12月5日のフィールドトリップでは、ヨハネスブルグのウィットウォーターズランド大学を訪ねた。100年の歴史を持つ同大学は、ゴールドラッシュ以来の鉱山や石灰石採石場だった洞窟などから発見された膨大な化石を保管している。近年発見されたアウストラロピテクス・セディバの化石も、ホモ・ナレディの大量の化石もここにある。

ウィットウォーターズランド大学の化石ラボで説明するジプフェル博士

化石ラボのキュレーターを務めるベルンハルト・ジプフェル博士は、「かつての植民地主義的な見方では、アフリカでの化石発見の意義が認められるまで30年近くかかった」と語る。一方で、「東アフリカでも南アフリカでも、たまたま化石が保存されていた場所が『人類のゆりかご』と呼ばれている」とも。

猿人からヒトへという進化についての仮説は、近年の新発見でどう更新されていくのか。丹念な化石のクリーニング作業が続き、スキャン画像や3Dモデルなど最新の技術を駆使した化石の分析が今も進行中だ。

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