会員 清水健
WCSJの企画した現地視察では、ハーテビーステック電波天文台 ( HartRAO )の見学を選んだ。その理由は二つある。南半球に位置する南アフリカの地理的特性を活かした研究活動の最前線を見学したかったのと、もう一つはグローバルサウスにおける先端科学研究の現場に関心があったからである。
HartRAOはプレトリア市街地から西へ60キロ離れた丘陵地にあり、会議場から車で1時間半ほどで、柵で囲まれた白人農場がまばらに広がるハーテビーステック(Hartebeesthoek)盆地に白いパラボラアンテナが姿を現す。ちなみにハーテビーステックとはアフリカに分布するウシ科の偶蹄類ハーテビーストの土地という意味である。
車内でミリサ・ケンタネ広報部長から概要が説明された。現地視察の参加者は、コートジボワール、カメルーン、南アフリカ、インド、フランス、アメリカ、そして日本からの7名と少人数であったおかげで、質問にも丁寧に答えてもらえた。
敷地へとつながる検問所には「電波不感地帯」(Radio Quiet Zone)の看板が掲げられている。以前は電子機器の持ち込みが厳しく制限されていたが、現在はかなり緩和されており、スマートフォンもフライトモードにしておけば持ち込み可となっている。これはハーテビーステック電波天文台で観測しているのが50MHz〜350MHzの低周波であるからで、350MHz〜15GHzの中高周波を観測しているカルー地方の電波望遠鏡群MeerKAT(ミーアキャット)では無線周波数干渉(RFI)プロトコルがより厳しく規制されているとのことだった。どちらも南アフリカ電波天文台(SARAO)が管理運営している施設である。
パラボラアンテナに隣接する管制所の建物に入ると、壁には一面にアポロ計画をはじめ米航空宇宙局(NASA)の宇宙探査計画に貢献したことを顕彰する銘板が掲げられており、この電波天文台の歴史を感じさせられる。施設を案内してもらう前に会議室で、科学的なことはエイドリアン・ティプラディ副所長から、技術的なことはフィリップ・メイ運用部長から説明があった。

SARAOはオーストラリアとともに次世代電波望遠鏡計画SKA(スクエア・キロメートル・アレイ)の中核を担っている。ALMA計画の運用に携わっている日本は、SKAにはオブザーバーとして参加している。
直径26メートルのパラボラアンテナは1961年にNASAによってDSS51(深宇宙観測所51)として建設され、1975年にNASAからCSIRへ移管されるとハーテビーステック電波天文台として再出発した。管制室に並ぶラックのうち三つはNASA時代から使われており、記録媒体が磁気テープからデジタル信号に代わったものの、基本的な機器は使い続けられているとのこと。

この大型パラボラアンテナの隣にはMeerKATの実験開発モデルとして2007年に建造された直径15メートルの電波望遠鏡があり、さらに少し離れたところに最近稼働し始めた直径13.2メートルのVLBI(超長基線電波干渉法)グローバル観測システム(VGOS)電波望遠鏡がある。現地視察ではこのVGOS電波望遠鏡の中を登って観測装置を見学させてもらった。
管制所の入口の廊下にある本棚に博士論文が並んでいたので、どのくらいの大学と提携しているのか訊ねたところ、2003年にSKA計画に参加するまで、南アフリカで天文学を研究する大学はローズ大学、ノースウェスト大学(旧ポチェフストルーム大学)、南アフリカ大学(UNISA)の3校のみだったが、現在では7校まで増えているという。
南アフリカをはじめアフリカの若者が大学で天文学の教育を受け、研究する機会が増えることで、電波天文学を支える科学者や技術者の育成につながる。また、SARAOの説明で先端研究とともに強調されていたのが人材育成と地域社会への貢献だった。国際的な研究施設の建設は新たな雇用を生み、天文学を観光と結びつけるアストロ・ツーリズムの試みも始まっている。
さまざまな可能性を切り拓こうとするSARAOの取り組みを学ぶことができた現地視察となった。