科学ジャーナリスト塾 第14期(2015年10月〜2016年3月)の記録

第5回 「聴きだす力、伝える心 ―塾生を取材する、塾生が発信するために― 」

「番組をつくろう」と塾生参加の実演」―室山哲也さん  戸丸亜希子(サポーター)

 第5回の塾(12月16日)では、NHKの解説委員・ディレクターである室山哲也さんを迎えた。テーマは「質問力」。初めに「僕はよく知らないのが武器。わかったふりをしない。本音でやる」。そして「僕がわからなきゃ、放送してもわからないだろう、と開き直っている」と質問力の大事さを説明しながら自己紹介した。

 そして塾について「せっかく来たので学びたい、一緒に何か探ってみたい。結論が何か出るわけではないけれども、そのプロセスが大事かなと思うんですね」、「だから僕が喋ることのメモはしないでください」。つまり「番組作ってくださいってことやるんです」と宣言して講義に入った。

モノが語り出す

 そんな室山さんからの宿題は「モノをつかって、あなたは何者ですかって、しゃべってほしい」である。次々に、そのモノを使った「魂の自己紹介」が繰り広げられた。

 医療大麻に興味を持っている森永さんは「製麻」。研究のワクワク、ドキドキを伝えたい青木さんは「脳の画像」。ミクロの生物の世界の楽しみを伝えたい大崩さんは「虫眼鏡」。原発問題を扱う記者の山田さんは「福島のリンゴジュース」。科学で解決できないことへのモヤモヤをもっている堀川さんは「チンパンジーの子供の写真」。取材対象に憑依して疑似体験が楽しいという石塚さんは分析した「四重奏の楽譜」。昆虫の生態の研究をしている鈴木さんはきっかけになった「オオムラサキの標本」。留学先で覚え、これをつけていると覚えてもらえるし、怖い目にも合わないとう中道さんは「蝶タイ」。理系の大学院生から新聞記者に就職する遠藤さんは就活で集まった「50枚の名刺」。

「一点突破、全面展開」、「モノに支配されるのではなく、モノが一人歩きするような見せ方をする。そうするとモノがしゃべる」という。一点のシンボル。これは、その辺歩いていて見つけられる訳ではない。それなりの戦略があって、それにたどり着いていく、このプロセスがテレビ的なものだという。

異質な脳とのコミュニケーション

 脳から脳へ伝わる。ここを忘れてはいけないという。どういうことか。これを体験するために、紙に「四角の上に三角を書く」という簡単な作業を塾生に行わせた。しかし、こんな簡潔な言葉を受けて書く図は、一つとして同じものが出てこない。それぞれの脳が世界を作っているのである。 さらに、牧野賢治さんをわずかな時間、正面に立ってもらった上で、塾生が記憶で描く「牧野さんの似顔絵」。各自の目を通過した情報は、脳でバラされ、もう一度まとめられて認識していることを実感した。都合よく情報が使えるように、脳が世界を作っているという。

 視点が変わると違う風景が見えることを、隠し絵などで体感した。これらの作業の意味として、「異質な脳を持っている相手とコミュニケーションをやっているということ。これは認識しないとならない」と室山さんは強調した。「異文化衝突時代のジャーナリズムが求められているのは、自分の立ち位置。どこに立って、どこから何を見て、何を伝えるのか。周りばかり見ていると主張はなくなる。決して簡単なことではない」という。

なぜ、質問力なのか

「ジャーナリストの中で諸々ある基本的な能力の中で、一番大切な言葉をあげろと言ったら質問力」。なぜか?「質問をして何かを引き出す。だから、質問できるのかどうかはとても重要なこと」と室山さんはいう。「一緒に歩いた感じになって、最後に本質をついた質問が出てくると、相手は止まらなくなる」。つまり「その人とその場所で、何かについてやりとりして、初めて出てくる話が重要。場所が変われば違う答えになるかもしれない。だから、オリジナリティーがある」。そして「喋っている人も、あなたに聞いてもらえてよかった、そうだったよ、俺も忘れていたよ。そういう感じのインタビューがいい」とヒントを塾生に与えた。

 さらに先ほど登場した牧野さんへの質問コーナー(答えはなし)。最後は福島のジュースを題材とした山田さんの話で、番組を作るための質問練習となる。オンエア2分前として、議論は打ち切りられ、塾生はストーリーの骨格を書かされ、室山さんの一人芝居のカウントダウンが始まった。「5秒前、4、3、2、1。はいスタジオに入ってくださーい、オンエアでーす。今日の話はここまで」と講義は終了した。拍手のあと「今のはね、プロセス。自分の頭の中で、うわーっとなったプロセスが大切。それを覚えておいて」とアドバイスの一言が入った。

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第5回塾のようす(撮影:都丸亜希子)

【補足】
この日塾に特別参加し、塾生の似顔絵の対象とされたり、質問相手にされたりした牧野賢治さんからは、ご自身の著書である『科学ジャーナリストの半世紀―自分史から見えてきたこと』(化学同人)が塾生全員にプレゼントされました。ここにお礼申し上げます。(この項、佐藤年緒記)