科学ジャーナリスト塾 第14期(2015年10月〜2016年3月)の記録

第8回 「地球温暖化をどう伝えるか」

科学的な理解が先か、身近な関心が先か―塾生論議  佐藤年緒(塾長)

 2月10日、毎日新聞の元論説委員で現在淑徳大学客員教授の横山裕道さんを講師に「地球温暖化問題をどう伝えるか」をテーマに塾を開きました。事前に発信したレジュメとパワポを使った講義ののちにグループディスカッションに移り、塾生5人を講師・サポーターら6人が囲んで参加するフルメンバーでの濃密な2時間でした。

 温暖化がなぜ起きるのか、その科学的な論拠は何か。懐疑論の紹介を含め、温暖化メカニズムを科学的に理解することや証明することの難しさも改めて学びました。そもそもなぜ、二酸化炭素は温室効果の大きいガスでありながら、大気中の窒素分子がそうでないかを科学的に分かりやすく説明するのは意外に難しいとのことでした。

 温暖化を伝えるうえで、メカニズムを理解することがまず大事か、それとも身近に起きていると気づく異変や関心事から入る方が分かりやすいのか。そもそも温暖化がなぜ悪いのか、といった根本的な疑問も含めて、5人が率直な意見を出し合っていたことが印象に残りました。

 人類が近代文明を築きあげる以前から、地球史の中で氷期と温暖な時期を繰り返していた事実と、いま言われている温暖化傾向をどう区別するのか、その点を横山講師はさまざまに説明していました。教科書的な知識としてではなく、塾生にとっても意外に難しい「私にとっての温暖化問題」。その日、出席できなかった塾生にとっても、一緒に考える価値のあるテーマでしょう。

 写真(サポーター都丸さん撮影)はグループディスカッションの風景。サポーターの柏野さんが提供してくれた広島県尾道産の粒の大きなミカンを口に含みながらの論議でした。温暖な瀬戸内海沿岸で獲れるこのようなミカンも、さらに1-2度温暖化が進めばどうなるかな、とふと考えます。栽培樹種は変わらなくても、雨が多くなり、害虫が増え、菌の繁殖が活発になり…と。

 ますます日常と関係する温暖化について、科学を伝える者として関心を持ち続けてほしいと思います。話題提供をしてくだった横山講師、ありがとうございました。

 
第8回の塾のもよう(撮影:都丸亜希子)

第8回「地球温暖化をどう伝えるか」の塾を見守って
問題の枠組みを明快にしよう 読者に「響く」記事を書くために  荒川文生(サポーター) 

 20年来、環境問題と取り組んでこられた横山裕道講師のお話の重みは、ずしりとしたものを胸の中に残すものでした。地球環境問題が、これ程までに複雑で、人々の理解が得にくいものであることをいまさらのように感じつつ、それゆえに、この問題をどう伝えるかを塾生と共に考えようという講師の控え目なお姿に、尊敬の念を新たにしました。

複雑な事象の報道に反省

 講演内容の概要はレジュメに譲りますが、もっとも重要なことは、補足資料として配られた毎日新聞の2つの社説(2001年10月28日と2003年1月6日)の違いを通じて、ご自身の問題の理解が当初、いかに浅いものであったかの反省を含めてお話を進められたことです。つまり、問題となる事象は複雑であり、問題を受け止める人々の状況が多様であるなかで、当初、懐疑論(楽観論)に影響される面があったけれども、問題を追及すればするほど、人間も自然も「急激な」変化には耐えられず、生物が大量に絶滅するという地球史を観れば明らかな事実に基づき、読者に「響く」記事を書かねばならぬと痛感していることが強調されました。

 そこで「響く」とはどういうことかを、塾生と共に考えるというのが講演の後半の主題となりました。講師から次々と発せられる質問に答えるうちに、塾生の考え方も深まっていったように思われます。その中でも、要点のひとつとなったのは、「読者は何を考えているか」を意識することが「響き」を呼ぶということでしょう。

受け止める人の状況はさまざま

「響き」を呼ぶということに対する塾生の反応はさまざまでした。「問題となる事象の構造を解説するよりは、読者の背景を把握して、その関心に応えることだ」「いや、その両者のバランス、つまり、重点の置き方が大切だ」「結局、哲学・倫理に精通した専門家に整理を委ねよう」「人々の関心の度合いに応じて開発予算が決まるように、記事の書き方も人々の関心の度合いに応じて決まるものだ」「科学ジャーナリストは、専門家の考えを伝えるより、自分の考えをドライに伝えるべきだ」などなど…。

 新聞読者の一人として環境問題の報道ぶりを論評するならば、その記事が何を問題としているのかという問題の枠組みを曖昧にしているものが少なくないと懸念しております。問題は政治課題なのか、経済対策なのか、あるいは自然と人間の存在に係るものなのかなど、その枠組みを曖昧にしつつ、読者をある方向に誘導しようとするような記事は、その信頼度を著しく低下させます。その意味で事象が複雑で、受け止める人々の状況が多様である問題を報道するに当たっては、問題の枠組みを明快にすることで記事の信頼度を高めれば、読者に「響く」記事が書けるのではないでしょうか。(了)

  
講師と塾生間のやりとりを聞く荒川アドバイザー(左写真の後方と右写真中央)