科学ジャーナリスト塾第15期(2016年9月〜2017年2月)の記録

第5回(2016年11月2日(水)開催)「現場・人に学ぶ(1)北極海にどう向き合うか」報告

科学とビジネス、バランスが試される北極航路
今野公美子(塾生)

 11月2日の第5回塾は、東京大学大学院教授の山口一さんを講師に迎え、「北極海にどう向き合うか」という話をうかがった。科学技術ジャーナリスト会議の例会も兼ねていたため、いつもより出席者が多く、今日的なトピックを学ぶ場となった。

 前半の1時間は北極で今一番注目されている「北極航路」の講義、後半1時間は質疑応答の形で進んだ。

 北極航路とは、温暖化で北極海の海氷が減少したことで開かれる海運ルートのことだ。アジアからヨーロッパへの海運は、通常なら中東のスエズ運河を通るが、北極航路なら距離を3~4割短くでき、コストを削減できる。ロシアやカナダなど北極圏の国にとっても、ビジネスチャンスとなっている。

 山口さんの研究は、安全な運航に欠かせない「海氷状況」を予測すること。衛星からの観測データや温暖化予想などからシミュレーションしている。詳しい研究のために、日本は北極観測船を持つべきだとも主張する。

 講義では、山口さんが撮影した北極海の動画や、「海を汚さないで」と吹き出しがついたホッキョクグマの写真も映し出された。この吹き出し、聴く人を飽きさせない工夫であると同時に、ビジネスへの理解を持ちつつ地球環境に向き合う山口さんのスタンスを、端的に表す言葉なのだと思う。「航路が短くなると二酸化炭素排出量が減るので、北極航路は温暖化の緩和策であり、適応策。温暖化が進んだほうが得、ということではない」という言葉には説得力があった。

いつか、南極。今すぐ、北極。
大西尚樹(塾生)

「昭和基地はF1レースだ」。そう語ったのは2度南極で生活をしたことのあるミサワホーム社員だ。9月22日の「しらせ」見学時のこと。ミサワホームでは最先端の技術を昭和基地建設につぎ込み、新技術の開発や耐久性のテストを行い、国内での住宅やプレハブ・仮設住宅の建築に生かしている。自動車メーカーがF1レースに参戦することによって、その技術を研鑽していくことと同じであるという。今すぐには使えないが、将来に向けての実験場が南極なのだ。

 一方の北極。11月2日の塾は東京大学の山口一さんによる北極の現状に関する講義だった。2007年9月17日、地球温暖化の影響により北極海が初めて開いた。夏になると北極海の氷は緩むが、年々海水面が現れる面積が広がり、期間も長くなっている。これにより欧州への海路は従来のスエズ運河を通る南航路だけでなく、北極海を縦断する北極航路が利用可能になる。海運に係る時間と距離の短縮をもたらし、ひいては地球温暖化の原因である化石燃料の使用量を減らすことができる。半面で、生態系が脆弱な極域では、オイルの流出をもたらすような海氷による衝突事故は絶対に起こすことはできない。

 地球温暖化の緩和と適応に関する新たな国際的な枠組み「パリ協定」の実施に向けてCOP22が11月7日開幕した。温暖化の緩和と適応の両面という大きなメリットと環境破壊のリスク回避をもたらす北極の海氷予測は、今すぐにでも実用化したい技術である。

  
第5回塾のようす(撮影:都丸亜希子)