科学ジャーナリスト塾第15期(2016年9月〜2017年2月)の記録

第2回(2016年9月21日(水)開催)「海を書く―それぞれの視点」報告

読み手の理解を考え、伝えること
城處絢子(塾生)

 9月21日、ほぼ定刻に科学ジャーナリスト塾第2日目の講義が始まった。佐藤塾長による塾生から寄せられた「海への関心」のまとめを皮切りに、3名のアドバイザー(保坂直紀さん、瀧澤美奈子さん、山本威一郎さん)による塾生への講話、そして翌日(9月22日)に南極観測船「しらせ」見学会を控えた柴田鉄治さんによる貴重な写真を見ながらの南極報道に関する講話、という構成だった。

 アドバイザーの講話は、ご自身の経歴や海に関する視点、執筆経験や苦労話など、短い時間ながら盛りだくさんで、三者三様の個性が際立っており、あっという間に終了時間となっていた。その中でも、「科学を伝える際には、情報の正確さだけでなく、情報の伝え方も重要。基礎知識のない読み手が理解できるように想像し、文章を考える必要がある」という話が特に印象的だった。

 これまで科学情報を発信することばかり考えていたが、受け取る読み手が理解できなくては、情報の意味がないことを改めて認識した。また、塾生同士の意見交換では、様々な視点での質問が飛び出した。塾生の受け取り方もそれぞれであることが垣間見え、非常に有意義な時間であることを体感できた。

 4名の話は一日では語りつくせない様々な経験が詰まっており、強い意志と情熱、そして、人の繋がりを大切にし、わずかなチャンスでも逃さない行動力を持っていることが共通していると感じた。自分自身も意識していきたい。

科学の流儀を離れて科学を伝える
大西尚樹(塾生)

 今回は“私はこうして「海」を伝えている”という内容で4名のJASTJ会員からのプレゼンテーションがメインであった。

 保坂直紀氏から「専門家ではない武器を生かす」をキーワードに、科学ライティングの基礎となるようなプレゼンがあった。専門家は文章を書く際に正確であることと主観を盛り込まないことを気にする傾向があるが、科学ライティングにおいては数式のような科学の流儀を使わずにそのエッセンスをいかに盛り込んでいくべきかが伝えられた。

 自分自身が研究者である私は、日頃から一般向けに話したり文章を書いたりする際に気をつけていることを再確認した一方で、「科学の流儀を離れる覚悟」について学んだ。20分という時間はあまりに短く、保坂氏の話を2時間フルで聞いてみたいと感じた。

 瀧澤美奈子氏は、自身が一般企業に勤務していた頃に「地味でつまらない世界」である深海の話を本にしようとしたきっかけや、その後、ジャーナリストの視点で文章を書くようにシフトしていった経験を話された。自ら出版社に企画書を売り込んでいった話などは、科学ライターの卵である塾生に刺激的だったようだ。

 山本威一郎氏はNEC在任中の電子海図開発の話、柴田鉄治氏は南極観測船に乗って南極に行かれた経験を話されたが、“私はこうして「海」を伝えている”というテーマからは外れており、経験そのものよりも、それをどのように伝えているのか(書いているのか)を聞きたかった。

[塾長からの補足]
 柴田氏の南極に関する著書としては『南極ってどんなところ?』(朝日新聞社発行)、『国境なき大陸 南極 きみに伝えたい地球を救うヒント』(冨山房インターナショナル発行)がある。山本氏は、船舶事故と海上システムについて『科学を伝える 失敗に学ぶ科学ジャーナリズム』(JASTJ発行)に掲載した「巨大化する情報システムの落とし穴?」のなかで書き伝えている。

 

 

 
第2回の塾のようす(撮影:都丸亜希子)