科学ジャーナリスト塾第15期(2016年9月〜2017年2月)の記録

見学会 東京湾の運河など(2016年11月19日(土))報告

水面から見る東京の風景
城處絢子(塾生)

 11月19日、土曜日の午後、イチョウや桜が綺麗に紅葉している東京海洋大学品川キャンパス構内に足を運び、取材ツアーに参加した。東京海洋大学佐々木剛准教授の講演とキャナリッジ(東京湾の水辺空間を活かしたまちづくりを目指す有志の会)山野道彦氏による解説を聞きながらの運河クルーズという構成だ。

 講演は、岩手県宮古市と東京湾の2つのプロジェクトで進められている川・海の環境浄化の取り組みを中心としたものだった。中学生を対象に海洋リテラシーの普及活動も行われていること、江戸時代のようにシバエビやうなぎなどが獲れる海を取り戻すことを目指していることなど、盛りだくさんながら非常にわかりやすい内容であった。

 運河クルーズは、天王洲からスタートし、芝浦~浜松町~麻布十番まで進み、折り返し、さらに目黒川の河口付近まで足を延ばした。佐々木准教授の説明も加わり、講演の理解も深めることができた。

 埋立地に建てられたマンションやオフィスビルを見上げる。普段見ている電車や車から見える東京の景色とは角度が違い、知らない東京の一面を覗き見ているようだった。

 一方、浜松町からの首都高速道路の下を流れるエリアでは、出船準備中の屋形船の群れ、雑居ビルの裏側、枝を伸ばし放題の木々、東京ではないどこかにいるような衝撃的な風景に出会った。だが、首都高速道路の切れ間からたまに見える東京タワーがまぎれもない東京であることを知らせてくれた。

 日ごろ浜松町で勤務している私にとって、日常と非日常が隣り合わせとなる不思議なひと時となった。

  
田町駅近く。ビルの中でも木々の紅葉が美しい水辺の風景。


ビルと橋脚の間から見えた東京タワー。
(撮影:城處絢子)

水質再生から広がる地域交流
宮澤直美(塾生)

 東京の芝浦で江戸時代に獲れたというシバエビを復活させようとしている人たちがいる。中心となっているのは東京海洋大学の佐々木剛准教授。「地元の資源を活かした内発的発展」という考えを軸に、港南中学校の生徒達と共に東京湾での「鉄炭ヘドロ電池プロジェクト」を進めている。鉄炭だんごをヘドロに投入すると2価の鉄イオンが放出され汚染物質と結合し、水を浄化するというもの。この時、電子の流れが生じるので電池と呼んでいる。

 佐々木氏によれば、水質再生を通じて生まれる生態系や食についての共感(環境教育)が重要であり、これには地元の協力も欠かせない。今回、運河(Canal)を架け橋(Bridge)とした地域交流、「キャナリッジ(Canalidge)」を進めている東京モノレール浜松町駅駅長、山野道彦氏の巧みなガイドで、水質再生の現場となっている東京の水路を巡った。

 屋根も無く、椅子が並べられただけの船。潮の様子をみながら、人や車、列車が通る橋の下を進み、途中の公園では手を振りながら駆け下りてくる子供たちに出会った。そして面白いことに、船には大人も手を振りたくなるらしい。水路を通るだけでたくさんの出会いがあることに驚いた。

 家康は江戸の町をつくる際、水路を大いに活用するよう設計し、この運送網が300年にわたる時代を支えていた。陸運に役割を譲った今でも、ヘドロと排ガスの臭いが無ければ、地域の人々にとっては素晴らしい交流の場だ。

 江戸時代のシバエビを復活させるための水質再生が、江戸時代に生活の要であった水路を新たな形で復活させる活動にもつながっていた。


鉄炭だんご(手前)と、鉄炭ヘドロ電池(奥に5つ並んだカップ、導線でつなぐと電球が光った)。


こちらに向かって元気に手を振る子供たち。
(撮影:宮澤直美)