科学ジャーナリスト塾第15期(2016年9月〜2017年2月)の記録

見学会 東京大学生産技術研究所 巻俊宏研究室(2016年11月16日(水))報告

海中海底の全ての情報を自動で収集
安藤聡子(塾生)

 第6回の塾は、11月16日に日本最大の大学附置研究所である東京大学生産技術研究所海中観測実装工学研究センター巻俊宏研究室で、自律型海中ロボット(AUV)の見学を行った。AUVは、海中海底の情報を収集することができるロボットで、資源探索、生物研究など様々な用途が考えられる。

 しかし海中では、GPSなどで位置を特定するための電磁波が使えないため、ロボットにとっては「暗闇を手探りで歩く」(巻准教授)ような難しさがあるそうだ。また一度潜水を始めてしまうと、高度はリアルタイムにロボットが収集して判断して決めるほか、自分が十分に情報を収集したかどうかもロボットが判断する。

 実際デモンストレーションでは、Tri-TON2というAUVが実験水槽で自分で判断して潜水する様子を見せていただいた。いつまでも潜水の様子を監視していては「子離れできない親のよう」(同)なので、より長く自立した運用ができるように研究をすすめているとのこと。AUVには、人が操縦しないのでより危険な海域の情報を収集することができる一方、複雑な操作ができないといった欠点がある。

 今のところ日本の海中ロボット研究は市場が小さく、国内メーカーが育たず、認知度が低いなどの厳しい環境にあるという。だが、日本の排他的経済水域は世界第8位と非常に広く、海底資源探索などの非常に注目されている分野とともに注目していきたい研究だ。

 
見学会のようす(撮影:都丸亜希子)

ロボットにしかできない海中探査
菊池結貴子(塾生)

 地球の海の98%は、水深200m以上の深海である。水深は最も深いところで11,100m。海底資源の発掘、生物や地震に関する調査など、深海を知ることはいまや人類にとって必須の課題であるが、人間が潜れるのはせいぜい30m程度。あらゆる深海はもちろん、海のほとんどの部分には、ロボットの力を借りないと手が届かない。

 日本における海中ロボット開発の最先端をゆくのが、東京大学生産技術研究所の巻研究室だ。11月16日、准教授の巻俊宏氏に現在の研究を紹介してもらった。

 巻研究室では、自律型のロボットを開発している。無人のロボットで、潜降前にプログラムを与えておくことで、自力で活動して海面まで帰還する。指示を与えるための海中ケーブル類が要らず、身軽に動ける一方で、プログラムには工夫が求められる。地形や流れなど、海中の状況は潜降してはじめてわかるため、ロボットは臨機応変に行動しなければならないのだ。

 試験用のプールにおいて、研究員の佐藤芳紀氏にロボット「Tri-TON2」を動かしてもらった。Tri-TON2は海底地図の作成を目的に写真を撮影する。この日は撮影を行いながらプールの底を動き回り、しばらくすると動きを止めた。「撮り漏らした箇所がないかどうか」を検証しているのだ。漏れがあったと判断したらしく、追加で撮影を行い、それから浮上してきた。この機能に加え、現在、自動充電システムを開発中だという。実現されれば、海底の長期間にわたる緻密なモニタリングが可能になる。ロボットにしかできない海洋開発の仕事を大いに期待したい。


Tri-TON2。海面で目立つように黄色く着色されている。横幅は約1.5m。


Tri-TON2を見つめる巻氏と佐藤氏。愛着のこもった口調が印象的だった。
(撮影:菊池結貴子)