科学ジャーナリスト塾第15期(2016年9月〜2017年2月)の記録

見学会 海洋研究開発機構「かいめい」(2016年11月22日(火))報告

地震研究に頼もしい新型船「かいめい」
今野公美子(塾生)

 11月22日の塾では、神奈川県横須賀市の海洋研究開発機構(JAMSTEC)本部を訪問し、田代省三広報部長らに話をうかがった。JAMSTECは元々、人間が300メートルの深さまで潜る技術や、深海まで行ける有人潜水船の開発を目的にできたという。前身の海洋科学技術センターの創立は1971年。人間は古来から海と共に生きてきたが、深い海への本格的な挑戦はまだ半世紀の歴史でしかない。

 新しい挑戦をリードする最新の海底広域研究船「かいめい」を見学した。2016年3月に完成したばかりで、地震探査や資源サンプルの採掘が主な任務だ。巨大な「糸巻き」に巻かれたケーブルは計1万2千メートルあり、海底の地殻構造を3次元で調べることができるという。試料解析などの研究室を備え、Wi-Fiも完備。居室は個室で、研究も生活も快適そうだ。

 東南海・南海地震の想定震源域の海底に地震計を張り巡らせて、地震と津波の兆候をとらえる「DONET」の説明も受けた。「スロースリップ」と呼ばれ注目されているプレートのごくわずかな動きもわかり、開発に携わった横引貴史さんは「地球に聴診器を当てているようなもの」と話す。

 見学コーナーでは、探査船「ちきゅう」が2012年に採掘した、東日本大震災を引き起こした断層のレプリカも見ることができた。

 訪問の22日は、朝6時前に福島県沖で地震が発生し、東北・関東の太平洋側に津波警報と注意報が発令された。緊張に包まれた日だっただけに、JAMSTECの防災研究が頼もしく思えた。当日から23日にかけて福島沖で「新青丸」と「よこすか」が海底地形を緊急調査し、今後はかいめいも活躍が期待される。


最新船の「かいめい」は操縦もしやすい工夫がされているという。


地殻構造を調べるケーブルを巻いた「糸巻き」。


「かいめい」は全長約100メートル、定員65人。
(撮影:今野公美子)

変幻自在な調査船「かいめい」
高山由香(塾生)

 11月22日、横須賀の海洋研究開発機構(JAMSTEC)に停泊中の「かいめい」を見学した。穏やかな港に浮かぶ真新しい船体は豪華客船のような繊細さだ。春のような日差しに、早朝の地震を忘れるほどだった。

 最初に田代省三広報部長よりJAMSTECの成り立ちと、国内外での役割や活躍などを伺う。経済団体連合会が政府に働きかけたことで1971年10月に前身となる海洋科学技術センターが設立された。40代以降の方は、未来都市というと水中都市を思い浮かべるかもしれない。その原型となる「海中都市構想」は日本でもシートピア計画として研究されていた(図2)。「地震・津波観測監視システム(DONET)」については、横引貴史研究員から説明を受けた。海底にセンサーを設置し、継続的にデータを集め解析する。このシンプルな構想を実現するために数多くの特殊技術が開発され、分野を越えて活用されている。

  JAMSTECが誇る最新鋭の研究船「かいめい」は、実にシンプルな思想で作られていた。移動手段および研究拠点としての船体に、その時々の研究内容に合わせて研究機材がセットされたコンテナ(図3)を積み込む。それは、市販のスマートフォンに好きなアプリをインストールし、自分専用にカスタマイズすることと似ている。汎用性が高く、航海ごとの準備や機能の変更も計画的に行える。

 目的に合わせ柔軟に機能を変更できる「かいめい」の存在は、日本の深海探査に不可欠であり、強力な推進力である。


かいめいに乗船。


シートピア海中作業基地(ハビタット)。


資料分析・実験用コンテナラボ。
(撮影:高山由香)