科学ジャーナリスト塾第15期(2016年9月〜2017年2月)の記録

第7回(2016年12月7日(水)開催)「ライティングの指導(1)」報告

文章に鉄則なし、あるのは“最低限”のみ
菊池結貴子(塾生)

 気が付けば、10回にわたる塾にも終わりが見えてきてしまった。第7回の塾、講義のテーマは「ライティングの指導」。元朝日新聞論説委員の武部俊一氏を講師に招いた。

「文章にこうすれば良いという鉄則はない。しかし、最低限おさえるべき心がまえはある」との語り出しで、10点弱の心がまえを教わった。その詳細はJASTJ刊行の『科学ジャーナリストの手法』(化学同人、2007年)に書かれているので、ぜひ同書籍を参照されたい。

「言葉に敏感になる」という点について、特に考えさせられた。「倫理的に問題がある」「議論を呼びそうだ」といった表現は、記事をうまく終わらせているように見えて、実は中身がない。学術研究に関する文章でも、こうした便利な一言に逃げてしまうことがあるが、そこを具体的に言い換えると文章に深みが出るはずだ。しかし、その言い換えは容易ではなく、“最低限の心がまえ”でさえレベルが高い。新聞記者の技術の膨大さがうかがえた。

 講義後、最後に書く課題作文の形式を話し合った。会報『JASTJ News』のように、さまざまな種類の文章を分担して作成し、全体でひとつの主張をもった紙面を作成するという案も出ていたが、今期の塾の共通テーマ「海」について各々執筆するということにまとまった。ただし、主観を前面に出したエッセイや感想文は避ける。その点が明確になったことで、これまでの報告記事よりも一歩進んだ文章に挑めそうだ。

一流へのチケットは「エチケット」 
高山由香(塾生)

 12月7日、今年最後の回の講師は元朝日新聞論説委員の武部俊一氏。前半はジャーナリストとしての作法、いわばエチケットいう視点からの解説だった。文章の商品価値を「締め切りを守って50点、見出しとリードで残りの半分」という例えで説明した。半世紀もの間、締め切りを守ってきた大先輩の教えは簡潔だ。

  品と深みのある文章
 結論として、文章を書いていない時の過ごし方が重要だといえる。読み手に負荷を与えない正しい日本語、具体的で平易な表現の研究、そしてバランス感覚や教養。どれも地道な訓練と知識の積み重ねが必要だ。「同じ現場を取材しても文学や歴史の素養のある人が書く文章には滲み出るものがある」。その表現で誰かが傷ついたり、読み手の誤解を招いたりすることはないかを常に想像すべし。この教えは第4回の授業でも取り上げられた。文章修業は人生修業、生涯をかけての学びなのだ。

  卒業へ向けて
 残すところ3回となり、最後の課題が説明された。塾生の背景を考慮し、制約は緩やかだ。自由テーマの文章にプロの講評を受けるチャンスである。出席者7名で行った課題についてのディスカッションは、各自が思い描く読者像を知る初めての機会だった。同じ講義を7回も受けてきた同士なのに、思い描く「普通のおとな」は文字通り十人十色だ。その全員にわかりやすく伝えるテクニックは存在しない。あるのは伝えたいという思いだけである。

 約束と思いやり。誠実な文章は人そのものだ。

 

 
第7回塾のようす(撮影:都丸亜希子)